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9. 「相手のモカシンを履いて、月を六周しなさい」

執筆者の写真: Yasuko KasakiYasuko Kasaki

「相手のモカシンを履いて、月を六周しなさい」 これは、ネイティブ・アメリカンの教えのひとつです。 相手を批判、非難したり、文句を言う前に、その人になり代わってその人の目で世界を見てみる、人生を見てみる、その人から自分を見てみる、ということをしなさい。それができてから、ものを言いなさい。 ほんとうに人を思いやるとは、そういうことなのですね。 相手の人生観、世界観に立ってまわりを見渡してみたら、その人がなぜそのような考えを持ち、そのような行動をし、そのような言葉を投げるのか、わかってきます。けれども、そのためには、相手の心にすっぽりと入って、月を六周するくらいの忍耐、時間が要るというのです。 そうかもしれないなあと思います。相手の気持ちを考えるには、注意深さと集中、冷静さと公平さ、あたたかさと正直さ、等々を求められるはずです。生半可な、いい加減な、急いた心では、とてもたどり着かない境地でしょう。自分を守ろうとして、言い訳を考えたり、策を練ったり、自分の正しさを主張しようとする心では、できないことでしょう。 好きな人や、家族や、近しい人のなかに意識を丸ごと移し込んで、自分を眺めてみる。彼から見て、わたしはどんな女性だろう、わたしの言動はどんなふうに見えるんだろう、自信なさげかしら、引っ込み思案かしら、コントロール・フリークかしら、落ち着きがないかしら、云々と、じっと観察してみる瞑想は役に立ちます。相手の目で自分を見るのは、最初は照れくさいし、つらいかもしれませんが、目を閉じて、じっと、そのつらさの去っていくのを見守っていると、相手の真実(相手が自分をどのように見て何を感じているか)と、自分の真実(自分はいったいどんな人間か)が、よく見えてきます。 はじめに見えてくるのは、自意識過剰気味の、身構えた、野心的な、同時に自信のない、怯える小動物のような「わたし」かもしれません。そこでやめないで、そんな自分をもう少し観察するのです。月六周分、までの忍耐はいりません。まもなく、ほんとうの自分が姿を現します。つまり、相手(たった今、なりきっている相手です)が惹かれている自分が見えるようになります。相手が、自分のどんなところに魅せられて、自分の人生に登場してきたのかがはっきりとわかるようになるのです。 お互いに、惹きつけ合うものを持たない二人が、相見えることはあり得ません。どんな場合であれ、相手が目の前にいるということは、たましいの深い部分でお互いに惹かれ合い、学び合うものがあるからなのだということを忘れないでください。そして、その輝いている部分を分かち合うこと、喜び合うことをこそ、どんな場合でも相手は望んでいるのだなということを、思い出してください。 誰もが、神様の贈り物として自分の人生に登場してくるというのはほんとうだと思います。自分もまた、誰彼のための贈り物として存在しています。自分は今、どんな贈り物としてここにいるのか、ということに思いを向けることによって、その贈り物がさらに光り輝くのが実感できるでしょう。 (初出誌 Linque Vol.10 発行:国際美容連盟2006年2月)


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